【感想/レビュー】ヘンタイ・プリズン【ネタバレあり】


注意
本記事にはヘンタイ・プリズンのネタバレを含みます。
閲覧の際にはご注意ください。
それでは、対戦よろしくお願いします。

 

 

作品概要

タイトル ヘンタイ・プリズン
メーカー Qruppo
発売日 2022年1月28日
ジャンル 露出狂のプリズン脱獄ADV
HP https://qruppo.com/products/henpri/

あらすじ

主人公の少年、湊柊一郎は公衆の面前で露出を行うことに自己表現を見出していた、所謂露出狂である。
公然わいせつ罪に類する行為が当然許されるはずもなく、3度目の逮捕を経験した柊一郎は遂に実刑判決を言い渡される。
判決は懲役10年。
公然わいせつとしては法外の判決を受けた柊一郎は、更生不能と判断されており、幻の9つ目の矯正管区、性犯罪者専用の「チューリップ・プリズン」への収監が決定してしまう。
このプリズンでは、犯罪者たちに人権は無く、強権を振りかざす看守たちに蹂躙されていくばかり。
絶海の孤島に作られた牢獄で、柊一郎は生き残れるのか――

といったところ。

同ブランドの前作「ぬきたし」が、性に寛容すぎる開放的な南の島を描いたのに対し、
今作は性を極限まで抑圧された嵐の吹き荒ぶ寂れた島が舞台になっている。

体験版部分までの感想

本作体験版部分までをプレイして、私が抱いた本作のテーマは
「社会的に許容されない欲求を持つ人間が、それを代替する自己表現に目覚める話」
露出をすることでしか自己を表現できないと思い込んでいた柊一郎は、千咲都の詩と出会うことで文章による表現と出会う。
やがて柊一郎はシナリオ担当の千咲都、イラスト担当の妙花、プログラム担当のノアとのゲーム制作にのめり込んでいく。
しかし4人が制作したゲームは、プリズンで行うレクリエーション活動において相応しくない性的なもの、と一蹴されデータを破棄。主導した柊一郎は地下の懲罰房に送られるという重罰を受けてしまう。

だが柊一郎は諦めていなかった。再びゲームを完成させるために立ち上がる――
というのが体験版までのお話。

ここで一旦本作のネタバレ抜きの評価を書いておく。

評価

評価基準は以下の通り。
シナリオ:40点満点
グラフィック:30点満点
キャスト:20点満点
システム:10点満点
の合計100点。
基本的に減点方式。
シナリオ以外の評価は甘め、致命的な問題が無い限り減点はほぼ無し。

評価基準を明示したところで、本作の評価は以下の通り。

シナリオ 38点
グラフィック 30点
キャスト 20点
システム 10点
合計 98点

以下に各項目の評価ポイントを記す。

シナリオ

・シナリオの一貫性、設定の有効活用
⇒全編を通して何を描きたいかハッキリとしている。
主人公とヒロインが、自らの罪と向き合った上で理不尽なプリズンからどう自由になるかを描き切っている。
そのため、主要人物が犯罪者たちであることがシナリオ上大事な要素となっており、設定にちゃんと意味がある。
・キャラクターの魅力
⇒主人公やヒロインはもちろん、サブキャラ含め魅力的。
特にソフりんや小沢。
・秀逸なギャグによる緩急の付いたシナリオ
⇒舞台が監獄であるため、重く描こうと思えばずっと重く描けるのだが、
そこはぬきたしで名を馳せたQruppo、ギャグパートを程よく挟むことで重いシナリオも苦にならず読めるようになっている。

こんな感じ。どんな感じだよ。

グラフィック

かなり印象に残るレベルのイベントスチルがいくつもあるレベルの高水準。
是非シナリオと一緒に楽しんで欲しいところ。

キャスト

これもまた高水準。
メインキャラはもちろんモブに至るまでインパクトが強い。
特にソフりん。

システム

ArtemisEngine採用。
基本的な機能は全て備えてあり、ゲーム内からアップデートができるのがポイント高め。

 

※以下よりネタバレを含みます。
未プレイの人はまだ遅くないので買いに行こう!
DL販売もやってるぞ!!

 

それぞれのヒロインについて

千咲都

2022年この子を幸せにしてあげたいヒロイン選手権優勝候補。

両親が無くなり施設に入るもたらい回しにされた挙句、最後にたどり着いたのが子供を食い物にする悪徳団体。
虐待行為に耐えかねて爆弾を自作し、施設の大人を殺害。
施設の大人2名の殺害の容疑だけでなく、父親の死が不審死だったとしてその罪まで擦り付けられ、性犯罪者専用になる前のプリズンに投獄。
生まれつき赤く染まった右目が怖かったというだけで看守や囚人からの恨みを買い、1年足らずで問題行動多数により更生不能の烙印を押される。
その後担当刑務官になった夕顔葉月により、地下の更生不能房へと落とされてしまう。
それ以来夕方の1時間以外の自由時間はなく、最悪の環境で数年を過ごす。

世間のどこにも、犯罪者の集まるプリズンにさえ居場所がない。
だから、現実はいつもビターエンドだ。
と、厭世的な彼女の居場所を作ってあげるのが千咲都ルートのお話。

自己以外の存在が希薄だったために孤独だった少年と、
周囲から拒絶され続けたが故に孤独だった少女。

自己以外が世界になかった少年は、己のすべてを擲ってでも守りたい存在を手に入れて。
生きることを諦めかけていた少女は、醜く足掻いても共に生きていきたいと思える存在を手に入れた。

私こういう関係がめちゃくちゃ好きでして。
柊一郎が更生不能房に落ちてきた時の千咲都のリアクション、相模恋さんの名演も相俟って強く印象に残ってる。
オタクは泣いた。

あと実は年上なのがバレたときの反応とか、地味にお姉さんぶってるところとかも可愛くて好き。
一生みんなに愛されながらダークなボケを垂れ流してほしい。

紅林ノア

2022年ルートに入る前と入った後で印象変わりすぎ選手権優勝候補。

ルートに入る前は、クールでクレバーな少女。
ルートに入った後は、姉が絡むと完全にポンになる天才少女。
姉であるソフりんに看守を辞めさせるためにプリズンに来た、
ってとこまでは想像できてたんだけど、ここまでシスコンだったのは想像してなかった。

本編中でも語られていたが、柊一郎とノアは割と似通った特性を持つ。
柊一郎の世界には自分とアマツくんだけ、ノアの世界には自分と姉だけ。
柊一郎はアマツくんを第一に動き、ノアは姉を第一に動く。
そこに気付いた柊一郎が、ノアに共感を覚えるところから大きく物語が動き出す。

ただこのルートで浮き彫りになる最大の問題が二人の前に立ち塞がる。
それは「自らが犯した行為に対する悪気が無い」ということ。
このルートの途中、具体的にはソフりんに説教される前までは、柊一郎もノアも自分がやった行為を悪いと思っていないのだ。
それは良くない。このゲームの主要キャラはあくまで犯罪者なのだ。彼らがしでかしたことは社会的に許されないことであり、それを自覚し、反省をする必要がある。

そこに立ち塞がる壁が、上記で言及しているソフりんの説教である。
詳細は後のソフりんについて書いた項にて記すが、罪を犯してまで自分を追ってきたと嬉々として語るノアに対し、ソフりんは痛烈な批判を叫ぶ。
またそれは柊一郎にも向けられた言葉であり、二人はそれまでの自らの行いを見つめなおす。ここがノアルートにおける起承転結の「転」であろう。

これまでの自分を見つめなおした柊一郎とノアは、やがて己の執着の外にいた存在を理解し始め。
変わり始めた二人は強い絆で結ばれ始め、互いが互いの片割れと呼ぶまでになる。

この二人の関係も良すぎるんですよね……
深い信頼のもとに作られた戦友のような関係。良いよね。
特に保護房から出されて、互いが脱獄方法について口を割らなかったのを知ったときとか。
あと
「私たちは、互いに欠けてるものがある」
「ふたり一緒なら、その欠陥を補い合えることもない」
「欠けている場所がとても近い場所だから」
「欠けを埋める必要はない。そのまま生きていけばいい」
ってとこ。
言葉だけ見ると共依存のように感じるけど、互いが互いを真に思い合う、鋼のような精神を持つ二人であれば、呪いの言葉もこれから歩む道を祝う言葉になる。
合理性の塊たちに生まれた、非合理的な結びつき。
良いよね。

波多江妙花

2022年盃を交わしたいヒロイン選手権優勝候補。
俺たちの組長。

千咲都ルートも、柊一郎の「彼女のために何かをしてあげたい」という感情の発露による物語であったが、妙花ルートも根本はそんな話だ。
その根源が「救済」であるか「奉公」であるかの違いはあるが。

このルートにおいては、妙花の在り方に惚れ込んだ柊一郎が、何か彼女の力になれればと波多江組の面々に付くことを決める。
次第に恋情に近い感情を覚えるが、ここでこの感情について聞いた相手が悪かった。いや、むしろ良かったのか?
聞いた相手はノア。
「その人のことを考えると胸が熱くなるんですよね」
「頑張って背中を押してあげたくなるんですよね」
「グッズとかあったら買っちゃいそうなくらい応援してるんですよね」
「なら……"推し"ですね」
ホンマか?

ノアの影響で柊一郎の推し活は加速する。
やがて妙花がプリズンに来た目的を知り、その解決に向けて協力していくことになる。
その道中で「ZEN-GI-OH」なるTCGを作って金を稼ぐパートがあり、本作中でも屈指のネタシーンなのだが、その話はまた今度。

話を戻して。
妙花ルートでは我妻看守長の手により、多くの囚人が洗脳されてしまう。
波多江組の面々も例外ではなく、最終的には妙花と柊一郎は、お互い以外は全て敵といった状況に陥ってしまう。

苦しい状況の中、解決の糸口を必死に探し、常に危ない橋を渡る生活。
暫くして、互いが互いを失いたくないと強く思うようになる。
そして、打倒我妻看守長のために敵対している夕顔看守長を味方に引き入れるという細い糸を漸く掴んだ二人。
しかし、夕顔看守長の要求は苛烈。妙花を守るため、柊一郎は身を切ってその要求に応える日々。
そんな日々の中で、ついに柊一郎は己の中にある妙花への愛情に気付き、思いを告げる。
が、既に妙花の精神は限界にあった。組の面々が次々と離れていく中、最後に残った柊一郎を失いたくないと強く思っていたところへの突然の告白。
常に保っていた組長としての体面が剥がれ、等身大の少女としての一面を露わにし、「情けないだろう?」と柊一郎に問う。
が、その程度で推しに幻滅する柊一郎ではない。
全てを受け入れると言う柊一郎に対し、妙花もその告白を受け入れる。

ベタだからこそいいですよね、カッコいいヒロインの本音を知る瞬間。
強いところと弱いところ、そういった妙花の魅力を余すことなく描いた、とても良いルートだった。

サブキャラクターについて

ここからは個性豊かなサブキャラたちについて。
全て書いていると頭がおかしくなる文量になるため、今回は3人だけピックアップで。

ソフりんの存在

愛すべき我らがソフりん。
作中で一番普遍的な価値観を持った、普通の人。
彼女が居なかったらこの作品にここまでの深みは生まれていなかったと思う。

妹との関係に苦しみながら見つけた、犯罪者更生に携わる道。
どんな犯罪者も更生できると信じて、プリズンで働く毎日。
しかし現実は甘くなかった。
更生し出所した担当囚人が社会に受け入れられず自死を選び。
信じていた担当囚人に裏切られ、暴動を起こされ。
そんなことが積み重なり、輝いていた瞳はいつしか濁り、消えない隈と眉間の皺が出来た。

作中当初、理不尽の象徴だった彼女。
ノアルートなどを通しその本質が明らかになるにつれて、私はどんどん愛おしさを覚えていった。
これがℒℴѵℯ……

ここで突然ですがソフりんの真面目モードで好きなシーン三選。

一つ目。
ノアルートでの説教シーン。
これが無ければ柊一郎とノアは自分がしでかした行為の重さに気付くことは無かった、非常に重要なシーン。
犯罪行為を断じて許さない正義感と、それでも犯罪者に更生してほしいと願う優しさが、彼女の中で鬩ぎ合っていたが、ノアの態度によって弾けてしまった。
犯罪行為を詰る言葉に始まり、ノアへの確執から、無力な自分を責める自己嫌悪へ。
ソフりんというキャラの本質が初めて見えたシーンなのではないかと思う。

二つ目。
妙花ルートで炭鉱への海水注入により柊一郎が殺されかけるシーン。
普段どれだけ迷惑を掛けられている人間だったとしても、その命を失わせてはならないと真剣に怒るソフりんと、同情するフリをしながら柊一郎を始末しようとする我妻看守長。
人間性如実に表れるシーン。ホンマ我妻看守長って何なんや。
泣きながら「生きてる!!!」って言うところまでが100点。

三つ目。
ノアルートで自分を庇って重傷を負ったノアへ語り掛けるシーン。
自らの行いを悔いるノアに対し、
「ずっと前から嫌いだった。天性の才能も、無神経さも」
「死んでしまえばいいと思うこともあった。殺してしまおうかとも思った」
「やったことを許してはやれないし、心から好きになってやることもできない」
と、言っていることとは裏腹に、穏やかな口調で語ったあと。
「生きていてほしかった、生きてて良かった」
優しい言葉を掛けた。
何故か。
それはお姉ちゃんだから。
どれだけ迷惑を掛けられても、妹、家族なのだ。
家族でもない犯罪者にでさえ優しくなれる彼女が、家族であるノアを見捨てられるはずがない。
が、彼女は純粋な善人ではない。
家族に対し薄暗い感情も抱える、目的のためには暴言・暴力も辞さない。
優しすぎて不器用な、等身大の人間なのだ。
そんな彼女のことがよく分かる、とても良いシーンだろう。

「生きてる!!!!(天丼)」

他にも語りたいことはあるのだが、クソデカ感情になりそうなので一旦ここまでにしておく。

樋口先生の話

この作品を語るうえで外せないもう一人のサブキャラクター。
そう、樋口先生である。
彼女は医者として、プリズンの支配から外れた存在として囚人に接する。

看守からは理解不能・クズの犯罪者として詰られ。
他の囚人からは露出などというしょうもない犯罪者として蔑まれ。
唯一の友達すらも否定され。
心が擦り減っていた柊一郎に、優しく、否定せず、ただ会話をしてくれたのが樋口先生。

彼女が居なかったら柊一郎は刑期が終わるまでプリズンで死んだように過ごしていたかもしれない。
そのくらい投獄後の彼の成長に影響を与えた人。

彼女は聖人でもなんでもない。
居場所を失いたくないという欲もあれば、柊一郎のことを完全に理解してあげられたわけでもない。
間違いもするし、嘘もつく。必要とあらばルールも破る。
それでも、彼女だけが、最初から最後まで柊一郎に寄り添った、唯一の大人なのだ。

一番印象にあるのは最終盤。
死刑を宣告され懲罰房に幽閉された柊一郎に、解雇されプリズンを追い出されることを告げに来たシーン。
柊一郎は目的のために自分自身をも殺せてしまう人間だと気づいていたのに、
それを止められなかったと自分を責めるように懺悔をする樋口先生。
最後まで大人としての責任を果たそうとしたその姿に、オタクは見るたび見るたび情緒をぐちゃぐちゃにされます。
あれはそうなっちゃうんや。

まとめ

このゲームで表現したかったこと。
それは「表現は自由であるべきだ」ということ。

特に昨今、性的コンテンツへの風当たりは強い。
犯罪を助長するとか。非実在の存在であれ犯罪だとか。性的消費だとか。
何かと理由を付けて表現を奪いに来る。

しかし。
ヘンタイ・プリズンはそれを否定する。
何者にも、己から湧き出た表現を奪うことはできない。

分かり合える仲間たちと、作り出す表現。
それが出来ることが、どれだけ幸せか。
このゲームを通して、それが伝えたかったのではないかと私は思う。

以上、「ヘンタイ・プリズン」のレビューおよび感想でした。
2月頭に書き始めたはずが、いつの間にか6月になっていたぜ!!