【感想/レビュー】AMBITIOUS MISSION【ネタバレあり】

注意
本記事にはAMBITIOUS MISSIONのネタバレを含みます。
閲覧の際にはご注意ください。

好きなアンビシャスはAmbitious Eve。
どうもこんにちは。お久しぶりです。

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全く関係ない楽曲の情報で冒頭を飾ったところで。
お久しぶりとは言うものの、ちょっと前にヘンプリの記事上げたじゃないか、と思ったそこの貴方。
まぁ実際その通りなのですが、あの記事は衝動的に書いたせいで体裁もめちゃくちゃ、挨拶の序文すらない、且つそんなので書きあげるのに3カ月かけた迷文でして。
実際にはここから再開となります。どうぞよしなに。

 

 

作品概要

タイトル AMBITIOUS MISSION
メーカー SAGA PLANETS
発売日 2022年5月27日
ジャンル

謎解き怪盗アドベンチャー

原画

ほんたにかなえ、とらのすけ

有末つかさ、羽咲せいか、夏彦

シナリオ

さかき傘

HP

AMBITIOUS MISSION|SAGA PLANETS

 

あらすじ

舞台は日本にある北の大都市・沙幌。

主人公・根津御影は、生まれ育った孤児院・根津院の経営を助けるため、
違法であるビルの高所工事のアルバイトをしていた際に、
世間を騒がせていた怪盗・ミスアルテの犯行現場に居合わせてしまい、
ひょんなことからその正体がクラスメイトの有瀬かぐやであることを見抜いてしまう。

正体をバラされたくないかぐやは、御影を怪盗の仲間になるように誘う。
躊躇う御影だったが、怪盗になれば根津院を買収の魔の手から救えるかもしれない、とかぐやに問いかける。

「根津院を買うための金は、お前の仲間になれば盗めるか?」

「家族の居場所を守りたい、それがあなたの真実なのね」

そう言った彼女――怪盗・ミスアルテは買収事件の"真実"を盗み出し、
見事根津院を救ってみせた。

「見る人のハートとため息を盗む。それが怪盗よ」

「わかった。俺も手を貸そう。あんたの"野望"とやらに」

そして御影は怪盗・ミッドナイトとして、
ミスアルテと共にその野望を叶えるため、沙幌の夜に飛び立った――

 

体験版部分までの感想

導入パートとして

ほとんどあらすじで語った通り。
いや、ホントにその通りで、導入としてはめちゃくちゃ良いんだけど、
正直設定的なところをもうちょっと語ってくれれば引きとしても完璧なのになと。

体験版パート後に開示されるかぐやの目的とか、敵対組織とか、
共通部分としていい出来になっているので是非プレイしてみてほしいところ。

 

登場人物たちについて

根津御影(主人公)

ヒロインの本郷虹夢曰く、「人当たりの良い陰キャ」。
物心がつく前から孤児院で生まれ育ち、多くの兄弟に囲まれて育ったため、
実家である根津院への愛着が深く、院を出て一人暮らしを始めてからも定期的に顔を出して、幼い弟妹たちにお菓子を買って帰るほど。

クラスでも男友達は多く、バイト先でも気に入られていることから人付き合いは得意な様子。
ただ同年代の女子と接することだけ少し不得手な模様。
年上・年下なら大丈夫そうなのだが。

また、かぐやが目を見張るほど運動神経が良く、
高めの塀を壁キックを使い易々と乗り越えられるほど。

ってここまで書いてて思ったのが、そんなん陰キャちゃうやん!
クラスで一番の爽やかイケメンよりは目立たないけど、
ちょっと陰があるけど実は優しいみたいなそういうイケメンじゃん!
そういう設定要らないから!素直にイケメンとして描け!!!

というのはさておき、根底に家族を守りたいというシンプルな願いがあり、
その行動理念に素直に共感しやすい主人公像となっているのはGood。

 

有瀬かぐや

昼は穏やかで優しいが、ちょっと近寄りがたいお嬢様。
夜は世間を騒がす優雅な怪盗、なメインヒロイン。

品行方正・成績優秀・周囲からの評価も高い完璧お嬢様。
のように見えるが実は苦手なことも多く、得意に見せているのは努力の賜物。

特に運動は苦手で、怪盗として活動するときは様々な補助パーツを駆使し、
華麗に宙を舞っているが、生身だと御影どころか虹夢よりも体力がない。

怪盗モードの時はプライド高めのお嬢様になるが、
別にそれが本性というわけでは無く、あくまで誰にでも優しい女の子の一側面である。

とある目的のため、とある宝石たちに執着しているらしく――

という感じで、基本的には人当たりのいいカリスマお嬢なのだが、
どこか危なっかしいところが見え隠れするのがポイント。

乳キャッチから始まる出会いもある。ホンマか?
石川弥栄

体験版時点だと、ちょっと人見知り気味なお隣の後輩ちゃん。
仲良くなってからがこの子の本領発揮。
礼儀正しく、どこか人懐っこい小動物系後輩として接してくれる。

実家が茶道の家元で、お茶はもちろん料理も得意。
御影の食生活が乱れていることを知ってからは、料理を作りに来てくれるほどの世話焼き。

そんな彼女には実は裏の顔が――

というヒロイン。
彼女の情報については体験版後に明かされることが大半なので、
今の時点だとここまでしか言えないのが……

こういう後輩系ヒロインやらせたらピカイチな声優さんが演じているので、
是非味わってみてほしいところ。

作中でも動物呼ばわり
本郷虹夢

可愛い・明るい・優しいの三拍子そろった学校中の人気者。
読者モデルをしており、学内ではちょっとした有名人。

かぐやがあまり目立たないよう過ごしているため、
学内一の美人と言われたら虹夢を挙げる人の方が多いらしい。

怪盗としての活動現場に偶然居合わせたことから、かぐやの仲間として活動を始める。
本人曰く、怪盗部のファッションリーダー。
口が軽そうに見えるが、実際は義理堅く、ちゃんと考えて行動している。

家族のために危険なバイトをしていた御影を高く評価しており、
元々人当たりが良いクラスメイトと思っていたため、御影のことをかなり好意的に見ている。

姉が農業をしており、その手伝いをする家族想いな面も。

評価(ネタバレなし)

評価基準は以下の通り。
シナリオ:50点満点
グラフィック:25点満点
キャスト:10点満点
サウンド:10点満点
システム:5点満点
の合計100点。
基本的に減点方式。
シナリオ以外の評価は甘め、致命的な問題が無い限り減点はほぼ無し。
ヘンプリの感想よりシナリオ比重上げました。そっちもコレ基準で直します。

評価基準を明示したところで、本作の評価は以下の通り。

シナリオ 40点
グラフィック 25点
キャスト

10点

サウンド

10点

システム 4点
合計 84点

以下に各項目の評価ポイントを記す。

 

シナリオ

・最大瞬間風速がデカい作品

さかき傘の描くシナリオは大体そう、と言ってしまえばそれまでなのだが、
この作品もTRUEシナリオの出来が格別のものになっている。

詳しく書いてしまうと全部のネタバレになるので、それについては後述。

・個別ルートも良し

だからと言ってTRUE以外がダメというわけでは無く、個人的には虹夢ルートなどは特に良かったと思う。
私たちのような現代一般人にも共感できるようなヒロインの悩みについて、
怪盗というテーマを駆使し、一つの答えを提示している。

社会問題とエンタメを上手に絡めた良いシナリオだったと思う。

攻略順は虹夢⇒弥栄⇒かぐや⇒TRUEがおススメ。

・社会問題提起について

怪盗という行為で、悪人の所業を白日の下に晒す、という作品の性質上、
現代的な社会問題に触れることが多く、それについてライターの思想が色濃く出る場面がしばしばある。

バックボーンが余り詳しく描かれないキャラについては、
ライターの代弁感が若干強く、その点については好みが分かれるところだろうと思う。

 

グラフィック

・構図について

主人公関連のスチルの出来が良く、特に印象に残っている。
ヒロイン関連についても水準自体は高く、問題という問題は無いのだが、
ちょっと思うところがあったので、それは後述。

 

キャスト

良い。
シャルちゃん可愛い。

 

サウンド

正直結構OP好き。BGMも良し。

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システム

テキストウィンドウ内のボタンがすべてアイコン表示なのが死ぬほど使いづらい。
これ次回以降は改善してほしいところ。

 

↓ここからネタバレ含む

※これより先ネタバレを含みます。
未プレイで内容が気になった人はここでUターン!

 

個別ルートについて

虹夢ルートのテーマは「数字とモノの価値」。
物の価値について、数字で表せるもの、表せないもの。
どちらが良くて、どちらが悪いという話ではなく、どちらも必要なことである。
というのを人工ダイヤの価値と現代におけるSNS上での価値に掛けて上手く描いていた。

弥栄ルートは「盗むべきもの、盗まれたもの」。
街を守る次代の盗人たらんとした少女は、何故先代のその姿に憧れたのか、
が主軸のこのルート。
展開としては王道で、弥栄ちゃんが16代石川五右衛門として覚醒していくシナリオを、根津与吉が起こした事件に絡めて描かれていた。

かぐやルートは「運命」。
この手の中にあるもの。この手の中に掴んだものこそが運命。
運命というものを見誤った少女が、間違いに気付くまでの物語。
と言ったところで、かぐやが狙っていたアンビシャス、ひいてはアレクレピオスが何か判明するのがこのルート。

虹夢⇒弥栄⇒かぐやと攻略することで、
沙幌の街で起きたこと・起きていることが徐々に分かっていくという作りになっているため、
個人的には攻略の場合この順番を強く推奨したいレベル。
逆に言えば、虹夢や弥栄のルートでは、事件の核心に迫ることができないため、
各ヒロインに関わる問題以外は若干消化不良で終わってしまうのが玉に瑕か。
ただ、後述するTRUEシナリオが個別で残った謎を上手く回収してくれるので、
全てプレイしてみればあまり気にならないポイントになるはず。

TRUEルートについて

導入

このルートは、怪盗としての活動中の事故で、御影が生死を彷徨う大怪我を負うところから始まる。
そんな御影を助けるために、かぐやの叔母・幌子がアレクレピオスを使い、御影の時間を巻き戻すことで怪我を治す。
アレクレピオスを起動したとき、根津与吉が暗躍を始める。

はい一旦ストップ。
個別ルートのところの説明で、アンビシャスが、ひいてはアレクレピオスが何かってのを説明していなかったので、ここで説明します。

アレクレピオスとは

医術の神と言われていた道具だが、その正体は時間を操る秘宝だった。
本体であるレコード盤に、12個のアンビシャスと呼ばれる宝石を嵌め込むことで、その真価を発揮するようになる。
その能力は大まかに分けて2つ。

一つは、対象の時間を巻き戻すこと。
もう一つは、使用者を中心に時間を操作すること。

TRUEルートの序盤、幌子は1つ目の能力を使い、御影の時間を戻し傷を治した。
かぐやルートの終盤、かぐやは2つ目の能力を使い、過去に戻りあてなを救おうとした。

2つ目の能力には致命的なデメリットがあり、
それは使用者は元居た時間から消え去り、
周囲の人間からは使用者の記憶が徐々に失われてしまうこと。
また、同じく使用者も元居た時代の記憶を徐々に失ってしまう。

非情に扱いづらい能力を持った厄介な代物である。
また、能力を使う際に世界の時間が一瞬止まるという副次的な効果があり、
それが後述する根津与吉の目的に関係してくる。

根津与吉の目的とアイヌの子守歌

個別中でも度々登場し、暗躍をしている根津与吉。
その目的は、不破霊元が作り上げ、全世界で使用されている仮想通貨・Fコインの管理権限を我が物とし、
Fコインが取引されることにより生まれる利益を手に入れることである。

そこで関わってくるのが作中で幾度も話題に上がる、
Fコインのセキュリティを解除するための「アイヌの子守歌」。
ただの音の集まりであればすぐに解除できたのだが、
アイヌの子守歌の完全再現にはこの世に存在しない音階が必要だった。

その正体は、完全なる無音。
時間が止まったときだけに生まれる、0の時間に在る音。

この完全なる無音が訪れたとき、Fコインの管理ツールのロックは解除される。
そしてそれは、アレクレピオスを使用した時に訪れる。

つまり、TRUEエンドの冒頭で御影に対しアレクレピオスが使われた瞬間、
根津与吉は裏でFコインを手に入れたということになる。

そうして手に入れた資産を使い、与吉は沙幌市そのものを自らのものとするため動き始める。

Fコインの管理権を根津与吉が握ったことを知った御影は、
それを奪い取るために行動を開始する。

様々な人を辿り、ついに見つけたその方法。

それはアスクレピオスを使い過去に戻り、
Fコイン管理ツールのパスワードに使われるアイヌの子守歌を書き換えること。

怪盗の最後の仕事と、20年前の真実

幌子から提示された管理権を奪い返す方法は、
アレクレピオスを使い時を遡り、子守歌の譜面を書き換えること。

しかしその方法にはすべてを失いかねないリスクがあった。
幌子は自らを犠牲に解決しようとするが、それを出し抜いた御影はアレクレピオスを奪取、
あてなに必ず戻ると誓いを立てた後、過去に戻ることを選んだ。

アレクレピオスを使用した瞬間、御影は過去に遡る走馬灯を見る。
最近の記憶。子供のころの記憶。赤子のころの記憶。
これ以上遡ったらどうなってしまうのか、となったその時。

次に浮かんだのは、怪盗ファントムの記憶だった。

と言うところで、どうしてこうなっているのかってことと、御影の正体について補足。

根津御影の正体、それはアスクレピオスの影響で赤子になってしまった、
不破霊元の息子・不破沙取であり、怪盗ファントムその人である。

ここに至るまでに何があったのかと言うと、

怪盗ファントムこと不破沙取、幌子たちと共に母を救うため怪盗を始める

アレクレピオスを手に入れた沙取、何度もその力を行使するが上手くいかず

アレクレピオスの影響で肉体の時間だけが巻き戻り、幌子の助けで根津院に預けられる

根津御影として第二の人生を歩み始め、今に至る

散々ファントムに似てると色んな人に言われ続け、
出自や両親が分からないためプレイヤーからはファントムが父親なのでは、と思われていたがミスリードでした。
アレクレピオスの正体を引っ張ったが故に上手く作用した伏線でしたね。

話をアレクレピオスを使った御影に戻しまして。
過去に遡ることに成功した御影だったが、意識しないと御影としての記憶を忘れてしまいそうな感覚に襲われる。

沙取の過去を追体験することで、その侵食はより強くなり。
ついには過去に来た目的を忘れてしまう。

そんな中、アンビシャスを盗み出す最中で有瀬の家へ身を隠した沙取。
そこで幼いころのあてなと出会い、言葉を交わす。

 

「怪盗さん、盗むことはよくないことですわ」

「勿論良くない。だから、盗んでいい物なのかよく考えるのさ」

「盗んでいい物なんてありますの?」

「ため息と、ハートを盗むんだ」

 

よくわからない、という顔をするあてなに、沙取は続ける。

 

「この手の中にあるものが」

「どんな価値があるのかなんて、きっと誰にも分らない」

「だからかな、何もかもを手に入れたくなるのは」

 

「だってほら、100の宝石を手に入れたって」

「たった1輪の花より美しいかは、誰にも分からないだろう?」

 

ここで開幕の意味深な回想を回収していくという粋な演出。
スズランの花をプレゼントされたあてなは、沙取にこう告げる。

「わたくしもいつか怪盗になって」

「あなたのハートを頂戴しますわ」

それは、過去に戻る前、あてなと交わした言葉。
この言葉を聞いて、沙取の記憶に侵食されていた御影は、自らの記憶と目的を取り戻した。

過去にあるアイヌの子守歌を書き換え。
元の時代へと、御影は戻って行った。

そしてアクセスキーは書き換わり、沙幌市は与吉の手から離れた。

ここがこのゲームの最大瞬間風速。
ライター的にはゴールデンタイムって言った方がいいのかもしれん。

あてなの言葉によってテキスト中の沙取の表記が御影に変わるところは、
ベタではあるがADVゲームならではの良い演出だと思う。

 

総評

ワンシーンに特化することの功罪

当初の評価でも最大瞬間風速が売りとは言っており、
当該のシーンについては個人的に手放しで褒めていい出来だと思っている。

が、これは良いところだけではなく、
個別の評価にもある通り、謎を残すことによる消化不良感と、
TRUEへの布石として扱われている感が否めないとは思う。

描きたい本筋が増えることにより、各ヒロインについてもキャラの魅力を示す描写が少しずつ失われており、
個人的にはキャラが一番立っていたのがサブキャラであるシャルちゃんというところも見逃せない。
(シャルちゃんは怪盗パートでの登場シーンが多いうえ、その中でもかなりのインパクトを残している)

特にTRUEルートのヒロインであるあてなに関しては、
重要なポイントとしての会話パートは確保されてはいるのだが、
御影と恋仲になるところなどは若干描写不足なのではと思う。

 

イベントCGについて

エロゲの大きな魅力であるイベントCGだが、
今作においてはその魅力が若干欠けていたと個人的には思う。

ゲームをプレイした後にどんなものだったか思い出す際、
エロゲであれば印象に残ったイベントCGが浮かぶのではないかと思うが、
今作はそれで思い浮かんだのがヒロイン周りではなく全部主人公だったという。

あてなの病室の窓辺に現れる御影。
虹夢の広告をバックに立つ御影。
アレクレピオスを使い、過去の姿を遡っていく御影。

2つ目は虹夢もメインだから、あまり一概には言えないとも思うが……

今作は主人公だけ原画担当が違うのだが、
果たしてこの構図に関するインパクトの差も原画家に由来するものなのか、
ディレクションの差なのか、ちょっと気になっている次第である。

あとかぐやルートの一番大事なシーンで出てくる、
かぐやを御影が抱きとめるCGだけはどうにかならんかったのかと。

割といいシーンなのに構図がアレなせいでイマイチ盛り上がりに欠けるというか……

おわりに

とまあ、全てが全て褒められる作品ではないということは、
ここまでの私の言で理解してもらえたと思うのだが、
それを差し引いてもTRUEルートのワンシーンは目を見張るものがあり、
シナリオライターのさかき傘氏の今後を期待させる作品になっていると思う。

買って後悔するような作品ではないことは間違いなく言えるので、
気になった方はぜひ買ってプレイしてみよう!

 

これも先月中には感想書き終える予定だったのになぁ……